精子を念写する人
以前、以下の記事で明治の念写事件を紹介した。
この記事で参考にした「千里眼事件―科学とオカルトの明治日本」に福良竹亭という新聞記者の話が載っている。それについて少し書きます。
福竹曰く、大阪南堀江の塩崎天真堂という時計商の息子も千里眼をもっており、透視や念写ができたという。そして福竹はこの時計商の息子を自らが務める大阪毎日新聞に社員として採用することを社長に進言している。社長も社長で「アメリカで火事があっても千里眼があれば電報代もかからない。もしその能力が本当なら入ってもらいたい」と真面目に答えたとある。
この話は福竹亭の「新聞記者生活五十年」から引用されており読んでみたところ、その前日譚となる時計商の息子の実験の様子も書かれていた。
この念写は段々進んで男子の睾丸の中に泳いでいる精蟲を念力で写真に撮影することが出来るという驚くべきことを発表した。
そうしてその実験を中之島花屋の大広間で試みることになった。当日は文部省の生駒参事官も見え、京都大学から博士諸先生が立会われた。
いよいよ実験に取掛り私の睾丸を念写したが、暗室でその乾板を調べると何か小さなものが泳いでいるように見える。大森君はこれを見て「君の精蟲だよ」という
――「新聞記者生活五十年」(福竹亭)
同僚の記者から「君の精蟲だよ」と言われるの、良いですね。
ちなみにこの新聞記者・福竹亭は徳島日日新聞→報知新聞社→大阪毎日新聞社と移って行った人で、「新聞記者生活五十年」の執筆時点(昭和10年)で大阪毎日新聞社の相談役になっている。本書を読む限りかなりマトモな人である。
福竹亭は報知新聞社時代に村井弦斎の下で働いていたらしく、素晴らしい上司の下で働けて良かった~みたいなことを書いている。
村井弦斎は「奇想科学の冒険―近代日本を騒がせた夢想家たち」 によれば、明治期を通じた大ベストセラー作家だったらしく、夏目漱石の作品の中にも村井の作品名が出てくる。
奇想科学の冒険―近代日本を騒がせた夢想家たち (平凡社新書)
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はい。
まあ、特にオチはないです。
長山靖生の本は良いぞという話でした。