人間が折り重なって爆発した

人間が折り重なって爆発することはよく知られています。

「ゲームの王国」を読んだ感想

「ゲームの王国」を読んだ。

これはたいへん面白い小説で、おそらく今年読んだSFだと一番になる気はします。(特に上巻は)

話は面白いし文章が上手いし、またワケ分からん作家が出てきよったなという感じです。(「ゲームの王国」はデビュー二作目)

上下巻ハードカバーで1800円×2=3600円となかなかのお値段ですが、良いです。

ゲームの王国 上

ゲームの王国 上

 
ゲームの王国 下

ゲームの王国 下

 

 

以下、ネタバレ全開で書きます。

 

良かった点

・ともかく上巻が異常に楽しい。

カンボジアの共産革命を話に中心に置き、マジックリアリズム小説をやる

・土を食いまくって土と会話できるようになる「泥」、輪ゴムを集めて輪ゴム教をやるクワン、13年間話さなかったのに突然美声になって歌い出す「鉄板」、脳内神々の綱引きで判断するマットレス…

・党の秘密の集会にある痰壷、祭日の翌日に大人のゲロの入ったバケツを処理する子ども、ムイタックとソリヤがチャンドゥクに興じている間にソファを解体したり壁紙を食ったりカーテンで綱引きをしたりする子ども、草バトル、糞問答、いい感じの石、そして太鼓のドンドンという音が鳴り響いて浮ついた空気の中クメール・ルージュがバタンバンに入って来て…

・革命以前は王子が王位継承権を辞退して大統領になって法律を独裁体制できるように変えるなどハチャメチャなことが起きていた云々やカンボジアの共産体制では本当に話す言葉の単語からしてかなり気を遣ったのだなという実感

 

気に入らなかった点

・下巻がSFスリラーになる。(上巻の面白さを求めるとちょっと物足りなさを感じる)

・終盤がなんかオタクっぽくないですか?

上巻のハチャメチャな感じが下巻になるとちょっとスマートになってしまうというか、上巻下巻でジャンル変わるレベルでの構成にしたにせよ、やはり失速してしまう感じがある。

 しかし下巻がダメダメかというと全くそんなことはなく。というか、作者の言いたいであろうSFアイデアは下巻になっていろいろと出てくる。

以下は主に下巻についてぐだぐだと。

下巻の主要なガジェットとしてチャンドゥクというゲームがあるわけですが、楽しいと感じることでゲームが進展するという面白い。一時話題になった笑顔にならないと開かない冷蔵庫っぽい。

ともかくそういうゲームが主題になるわけで、でもこれを実際の社会に応用しようという展開にはならない。SF読者としてはそういう展開を予想するのだと思うのだけど、まったくそういうことにはならない。これは開発者のムイタックがそのようなことを一切考えておらず、むしろ反対する立場にあるから。

例えば脳にナノマシンを埋め込んで楽しい(あるいは幸福だ)と感じれば感じるほど、お金がもらえるとか地位が上がるとか、そういう話にはならない。現実社会では勝利というものが明確ではなく、それは金・地位・名誉であるのかという問題があり、チャンドゥクでいえばそもそも幸福だから金があるのか、金があるから幸福なのか、ということもある。

社会にチャンドゥクがある場合、人々は幸福になるために常に幸福を感じるわけで、その為には過去の幸福だった時の記憶を常に思い出し続ける。ということが起きる。これは下巻でよく出てくる無限後退の話で、そして個人の原初の記憶の話だ。

学校内でゴミを落としてはならないというルールを守らせるにはどうするか、という問いに対してポル・ポトの出した答えはそもそも学校を消してしまうことだったというエピソードが出てくる。

伊藤計劃<以降>ワイワイ!などとやっている方々(もちろん僕もです)には言いたいことが分かると思うのだが、伊藤計劃が「ハーモニー」のラストでやったことはこれではなかったか、ということで。結局それは社会あるいは人間に対しての最良な解答なのか、ということになる。(そういう解釈でいいのか?)

はい。

この問いに対して、ソリヤはポル・ポトと同じ考えを持つし、ムイタックはどうやらそうではない。そして主人公二人は最後に死後の世界という純粋なゲームの世界へ旅立った(?)みたいな。

ゲームと現実の社会はどう違うか、というのはたしかにきちんと考えてもいいかもしれない。

 

家族を解体して人間を登用することは有能な組織を生む云々は面白く、なるほどなと。登場人物の多くが孤児であることも関連して。

というか、ソリヤ以外の人物の出生はメチャ語られるのに結局ソリヤの出生は述べないまま終わるんすね……ミステリアスなんすね……

最後のムイタックの遺書を読めばソリヤを神と読めなくもないけど。

ムイタックは潔癖症のルールオタクの面倒臭いオタクみたいな性格があってキャラ立ってるんですが、ソリヤはそれに対して超然としているというか、人格面についてはあまり掘り下げられないまま終わりましたね。

カンがソリヤを刺したのはチャンドゥクの影響なんですかね。そういう意味ではムイタックが勝ったのか(?)。よう分からん。

そして最後まで生き残るラディー。

モーリタニアのソンクローニ族ってググっても出ないんですが、これはフィクション?

作中の「人生」というカードゲームでリアスイとムイタックが語るのは良いですね。

 

 

牛がどんどん近づいてくるんです!

 

終わり。